転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


82 僕くらいしか作らないのか



 魔法の事に詳しくない、と言うか殆ど知らないお父さんは今まで僕が両方の魔法を使う事に何の疑問も持ってなかったみたい。
 でも、この世界の常識的な魔法知識を持っている二人にとって、この話はとんでもない事だったみたいなんだ。

「普通じゃないのかって、そんなの当たり前でしょ!」

「うむ。魔法使いが使う魔法と司祭が使う治癒魔法は根本からして違っておる。その両方を使える者など、そうはおらんわい」

 だって横で聞いてた僕がびっくりするくらいの大きな声で、2人はお父さんにそう言ったんだもん。
 で、言われたお父さんはと言うと、目を白黒させていて大慌てだ。
 そりゃそうだよね、だって今まで普通だと思ってた事がそうじゃないって解ったんだから。

 これがもし身近にもっと多くの魔法が使える人がいればそんな風に思わなかっただろうけど、お父さんの知っている魔道士って僕と村の司祭様、それに治癒魔法を使えるキャリーナ姉ちゃんくらいだ。
 そして僕は当然として、キャリーナ姉ちゃんも治癒魔法とは別に魔法使いの魔法であるはずのライトを本来の力で無いにしろ使ってるんだもん、身近にいる三人の内二人が両方使えるんだからそれが当たり前だって思ってても仕方ないよね。

「しかし父親がそう言うのであればルディーン君が治癒魔法も使えるというのは本当なのじゃろう。ならば本来の力を発揮できるこの二種類のポーションを作れるのは、鑑定解析が使え、治癒魔法も使える錬金術師と言う事になるな」

「隠密系の秘匿スキルを持つ治癒の魔道士ですか? それってルディーン君の他にいると思います?」

「隠密系のジョブも神官のジョブも身につけるには長い時間が掛かる。それにその二つはどちらかを持てばかなり重宝されるジョブじゃから、無理をして両方治めようとする者などまずおらんじゃろうな。ましてや鑑定解析は秘匿スキルなのじゃから、もし居たとしてもその者はおそらく皇帝か教皇の直轄。こんなポーションなど作ってはくれぬじゃろう」

「でしょうねぇ。と言う事は」

「うむ。これをそのまま登録するのは、ちと不味いじゃろうな」

 僕とお父さんを置き去りにして、二人だけで話を進めるロルフさんとバーリマンさん。
 でも僕もお父さんも今の状況がいま一歩解って無いから、横から口を出す事もできずにいたんだ。
 そしたら、

「のお、カールフェルトさん。今回イーノックカウには何時まで滞在なさるおつもりか?」

「えっ? ああ、今回は登録だけして帰るつもりだったので、明日の昼にはここを発つつもりですが」

「ふむ、できれば数日欲しい所じゃが……どうじゃギルマス。一晩だけでこの薬を調べられそうか?」

「できれば数日は欲しいですね。それに今からこの薬の材料を聞いても、それがすぐに手に入るかどうかも解りませんし」

 あっ、そう言えばこのポーションの材料を言ってなかったっけ!
 それに気づいた僕は、慌てて二人に教えてあげた。

「大丈夫だよ。このポーションの材料は簡単に手に入るから。あのねぇ、こっちのお肌つるつるポーションはセリアナの実のジュースを取った後に残った殻の中にある白いのから抽出を使って取り出したものが材料で、髪の毛つやつやポーションの方はそれに卵と蜂蜜を混ぜたものだからね」

「なんと、そのようなものを使ってこのポーションは作られておるのか!?」

「まさかそんなものに、こんな薬効があったなんて……」

 材料を聞いて驚くロルフさんとバーリマンさん。
 そうだよなぁ、お母さんもあそこは捨てる部分だって言ってたし。

「しかし何故じゃ、ルディーン君。君は何故あの白い果肉からポーションを作ろうなどと思ったのじゃ?」

「そうよね、普通は捨てる所ですもの。私も聞きたいわ」

 どうやら二人も、なんで僕が捨てる所からこんなものを作ったのか知りたいみたい。
 でもこれって、作ろうと持って作ったわけじゃないんだよなぁ。

「家でセリアナの実のジュースを飲んだ時、殻の中に白い身が入ってることに気が付いたんだ。でね、それがおいしそうだったからお母さんにそこは食べないのって聞いたの。そしたらぬるぬるして気持ち悪いし、繊維がいっぱいあって口に残るから食べないって言ったんだ」

「うむ。確かにセリアナの果肉は毒ではないものの、食べられたものでは無いと聞いておる」

「でもね、お母さんが食べないけど、もしかしたら栄養はあるのかもしれないって言ったから一応解析で調べてみたんだ。そしたらこの白いの、全体の半分近くが油だって解ったんだ」

 前から植物の油が欲しいと思ってて、それが解った僕は最初、その中に含まれている油だけを錬金術で抽出しようとした事、でもそれが大変そうだったから溶け込んでるもの全て纏めて抽出した事、そしたら動物の脂と同じで暖めないと液体になら無いって知ってがっかりした事なんかを話したんだ。

「でも折角抽出したんだし、もしかしたら何かに使えるか持って思って鑑定解析したんだ。そしたら」

「肌にいい成分が含まれてるって解ったわけか」

「うん。セリアナの実は、お肌のがさがさが取れる薬草だったんだ。でもね、この抽出した油ってすぐ悪くなっちゃうって事もその時一緒に解ったんだ。だから長持ちするように魔力を入れてポーションにしたんだよ。だってお母さんがご飯作ったり洗い物してると手が荒れるって言ってたから、これあげたら喜ぶって思ったからね」

 そう、これはお母さんに喜んでもらえればいいと思って作ったんだ。
 それなのに、なんでこんな所にまで来る事になったんだろう? おまけにきちんと調べないとなんて言われちゃうし。
 これを使っても、ただお肌ががさがさにならないってだけなんだから、みんな大げさだよ。

「なるほど、そのような経緯があったのか。では此方は? この髪の毛用のポーションはどうして生まれたんじゃ?」

「ああそっちはねぇ、お肌のポーションを作った後に鑑定解析で調べたら、卵と蜂蜜を入れて作ると髪の毛用のができるって出たから、さっきの油に混ぜて作ったんだ。でも、薬になるって出たのが栄養が前のよりもっと多かったからホント大変だったんだよ。だから始めは黙ってようって思ったんだけど、ヒルダ姉ちゃんにばれちゃって作らされたんだ。お姉ちゃん僕がこれを作るの、どれだけ大変なのかまったく解ってないんだから!」

 いっぱいある栄養全部に、溢れちゃわないよう気をつけながら魔力を注ぐのってホント大変なのになぁ。
 お姉ちゃんは錬金術を使えないから、気楽に言ってくれるんだもん。
 ホント、やんなっちゃうよ。

「へぇ、鑑定解析ってそんな事まで解るんだ。それは錬金術と相性が良さそうね。ねぇルディーン君。そのスキル、どうやって覚えたのか私に教えてくれないかなぁ?」

「え?」

 僕があの日の事を思い出して、1人で怒ってたら、バーリマンさんがそんな事を言い出したんだ。
 でもあれって確か誰にも教えちゃダメなんじゃ? そう思った僕は、ロルフさんの方を見たんだ。
 そしたらちょっと困ったような顔してた。

「これギルマス。おぬしも鑑定解析が秘匿スキルであり、その習得方法は他人に洩らしてはならぬ事くらい知っておろう。ルディーン君も、たとえ誰に乞われたとしても、けして話すでは無いぞ」

「うん。話したら偉い人に怒られちゃうもんね、僕、絶対に話さないよ」

「そんなぁ。鑑定解析が覚えられれば、新事実が色々と解るかも知れないのに」

 と、バーリマンさんはそんな事を言いながらうなだれてたんだけど、ふと何かに気が付いたかのように顔をあげたんだ。
 そしてゆっくりとロルフさんの方に目を向けて、おもむろに口を開いた。

「ちょっと待って。ロルフさんはルディーン君が鑑定解析を使えるって知っていましたよね? そして彼が自力でそのスキルを習得した事実も。と言う事はもしかして、ロルフさんはルディーン君から鑑定解析の習得法を聞いたんじゃないですか?」

 その指摘に、ばれたか! って顔をするロルフさん。
 そしてそんな表情をバーリマンさんが見逃すはずも無く。

「ずるい! ずるいですよ、伯爵! さては自分だけその方法で鑑定解析を習得するつもりでしょう」

「いや、そんな事はせぬ!」

「嘘です! 錬金術に心底のめり込んでいる伯爵が錬金術とここまで相性のいいスキルだと知って、それでも我慢できるはずありません! いやもしかしたらすでに習得してるのかも?」

「いやいや、いくらわしでも秘匿スキルを黙って習得しようなど……うむ、そのような事を、するはずが無いであろう」

「今、間が空きましたよね? やっぱりこっそり習得するつもりじゃないですか! なら私にも、私にも教えてくださいよ、伯爵!」

 まったく、大人なのにあんなに大騒ぎして、二人とも仕方が無いなぁ。
 それにバーリマンさん、さっき怒られたのに伯爵伯爵って何度も言って大丈夫なのかなぁ? それにロルフさんも否定しないし。
 まぁ普段から読んでるあだ名らしいから、近所に聞こえてもいつもの事だって思われるだけなのかもしれないけどね。


すみません、月曜は名古屋にいないので次の更新は水曜日になります。

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